2014年4月11日金曜日

第三章 第二の精霊:その八

第三章 第二の精霊:その八

 辺りはもう徐々に暗くなって、雪がかなりひどく降って来た。
そして、スクルージと精霊が路地を歩いていた時、ある家では、
台所や応接間やその他のあらゆる種類の部屋などで音をたてて燃
え盛っている暖炉の輝きがすさまじかった。
 そこでは、暖炉のチラチラする炎により、十分に焼かれている
熱いごちそうが皿に盛りつけられ、居心地のよい夕食の準備がさ
れていた。それと同時に、寒気と暗闇とを閉め出そうと、今まで
開いていた深紅色のカーテンが、すぐさま閉められようとしてい
た。
 あちらでは、家の中にいた子供達が、自分達の結婚した姉、兄、
従兄、伯父、叔母を出迎えて、自分が一番先に挨拶をしようと、
雪の中に走り出して行った。そしてまたこちらでは、窓のブライ
ンドに、お客が集まっているシルエットがうつり、そこには、皆、
フードをかぶって毛皮のブーツをはいて集まった美しい娘達が、
一斉におしゃべりしてウキウキしながら、近所の家に出かけて行っ
た。そのまばゆいばかりの彼女達が入って行くのを見た独身の男
性達は思わずつられて入っていった。かわいそうだが、彼女達は
巧みな魔女のように、そうなることを知っていたのである。

 ところで皆さんは、このように大勢の集まるパーティが開かれ、
そこに出かけて行くのであれば、どの家も留守になり、友人を招
待したり、煙突の半分までも石炭の火を燃え立たせたりする必要
がないと思われるのではないだろうか?
 せっかく招待客が、それぞれの家へ来ても、誰も出迎えてくれ
る者はいないのだから。それよりも、空き巣に入られる心配はな
いのだろうか?
 そうした心配のない、治安の良いどの家にも祝福あれ。

 この地域の信頼感が強いことに、精霊はどんなに喜んだことか。
どれだけその胸をむき出しにして、大きな手をひろげたことか。
そして、手のとどく限りあらゆるものの上に、その晴れやかで無
害な快楽をその慈悲深い手で振りまきながら、フワフワと空へ登っ
て行ったことか。
 たそがれ時の薄暗い街に、街灯のともし火をポツポツと斑点の
ように点けながら駆けて行く作業員ですら、夜をどこかで過ごす
ために、よい服に着替えていたが、その作業員ですら精霊が通り
かかった時には、その気配で声を立てて笑ったものだ。ただし、
クリスマスの精霊が自分達をお気に入りだとは夢にも思わなかっ
たけれど。

 ところで、スクルージは、今まで精霊から一言の警告も受けな
かったのに、突然、冬枯れた物寂しい沼地の上に連れて行かれ、
精霊とともに立っていた。そこには、巨人の埋葬地でもあったか
のように、荒い石の怖ろしく大きな塊があちらこちらに転ってい
た。
 水は気の向くままにどこへでも流れ、広がっていた。いや、氷
が水を幽閉しておかなかったら、きっとそうしていたであろう。
 コケとシダと、粗い毒々しい雑草のほかには何も生えていなかっ
た。
 西の方に低く夕陽が不機嫌そうな目のように真赤な線を残して
消えてしまった。それが一瞬の間、荒廃した周辺のいたる所に、
しかめっ面をして赤々と照り返していたが、だんだん低く、低く
その顔をゆがめながら、やがて真暗な夜の濃い暗闇の中に見えな
くなってしまった。

「ここはどういう所でございますか?」と、スクルージは聞いた。

「鉱夫たちの住んでいるところだよ。彼らは地の底で働いている
のだ」と、精霊は応えた。
「だが、彼らは私を知っているよ。御覧!」

 一軒の小屋の窓から光が輝いていた。そして、それに向かって
精霊とスクルージは瞬時に進んだ。
 泥や石の壁を突き抜けて、真赤な火の周りに集っている愉快そ
うな精霊のお気に入りを見つけた。
 非常に年老いたお爺さんとお婆さんが、その子供達や孫達やひ
孫達と一緒に、祭日の服装に着飾って陽気になっていた。
 そのお爺さんの声は、不毛の荒地をたけり狂う風の音に時々か
き消されながらも、子供達にクリスマスの歌を唄ってやっていた。
それは、お爺さんの少年時代のすごく古い歌だった。
 皆は時々、声を合わせて唄った。
 子供達が声を高めると、お爺さんも元気がでて、声を高めた。
しかし、子供達が静かになると、お爺さんの元気も沈んでしまっ
た。
 精霊は、ここに停滞してはいなかった。
 スクルージに自分のローブにつかまるよう命じた。そして、飛
び立ち、沼地の上を通過しながら、さてどこへ急いだのだろう。
それは、海へではないか?
 そうだ、海へ。
 スクルージは振り返って地上に目をやり、自分達の背後に陸の
先端を見て、怖ろしげな岩石が連っていたので恐怖した。

 海水は自らが擦り減らした恐ろしい洞窟の中でわき上がり、そ
してそれが渦となってとどろき、この地面を軟弱にしようと激し
くおし寄せていたが、その海水の雷のようなごう音で、スクルー
ジの耳も聞こえなくなってしまった。

 海岸から数マイル行くと、一年中荒れている波を投げつけられ、
すり減らされて沈んだ岩の暗礁があった。そして、その上に築か
れた灯台が一人でそこに立っていた。
 沢山の海藻がびっしりと、まるで海水から生れたように、その
土台にしがみついていた。
 海鳥は、まるで風から生れたかと思われるように、波をすくい
とりながら、そこを上昇し、そして、低く飛んだりしていた。
 こうした所でさえ、二人の男性がともした火を見守っていた。
 灯台の光は、厚い石の壁に開けられた窓から、恐ろしい海の上
に一筋の輝かしい光線を放っていた。
 二人の男性は、粗末なテーブルごしに向い合せに座っていた。
 ゴツゴツした手にこの場所の厳しさが表れていた。それでも、
彼らはラム酒に酔って、お互いにクリスマスの祝辞を言いあって
いた。そして、彼らの一人、しかも年長者の方(古い船の船首に
ついている人形が、荒れた天候で傷跡がつけられているように、
風雨のために顔ぜんたいをいためている年長者の方)が、それこ
そ暴風雨のような、ハスキーな大声で歌を唄い出した。