2014年4月11日金曜日

第四章 第三の精霊:その五

第四章 第三の精霊:その五

 部屋は非常に暗かった。
 どんな部屋か知りたいと思う無意識の欲求で、スクルージは、
その部屋の中をぐるりと見回わしたが、ほとんど何も見分けるこ
とが出来ないほど、余りにも暗かった。
 青白い光が、外の空の方からはっして、ベッドの上にだけまっ
すぐにさしていた。
 ベッドの上のその人は、身につけた物は略奪されてなにもかも
失われ、誰かに見守られることもなく、泣き悲しまれず、世話も
されていない。ただ、この体一つがあるだけだった。

 スクルージは精霊の方を見た。
 その手はしっかりと、その人の頭部を指していた。
 かぶせてあるシーツはとてもぞんざいで、それをほんのわずか
にのせただけだった。
 スクルージが指を上に動かせば、顔が露出しただろう。彼はそ
のことについて考えた。
(そうするのはとても簡単にできるだろう。そして、そうしてみ
たい。しかし、私には、そばにいるこの精霊を追い返すよりも、
このシーツを取り去る勇気はない)

(おぉ! 冷たい、冷たい、厳粛なまでに、怖ろしき死よ! こ
こに汝の祭壇を設けよ! そして、汝の命じるままになるような、
さまざまな恐怖をもてその祭壇を飾り立てよ! この領域は汝の
ためにあるのだ! しかし、愛され、尊敬され、そして、名誉あ
る支配者。これらのものを遠ざけた汝には出来はしない。それは
手が重いからではないぞ! 汝の恐ろしい企みは、一本の毛を変
えること。いや、一つの憎らしい人相を生み出しただけなのだ!
しかし、いつか、汝は、その恐怖から抜け出し、おちのびるだろ
う! それは力強い心ではない。しかし、静かな鼓動である。あ
あ! あの人の手は開いていた! 本当に寛大! 勇敢な心! 
やさしく思いやりのある。そんな人の鼓動がよみがえるのだ! 
励め! 幻影よ、励むのだ! そして、彼の傷ついた体から飛び
出す、よい行為を見せてみろ! 滅びない人生を世界中にまくの
だ!)

 何かの声がスクルージの耳に、これらの言葉をささやいたので
はなかった。ただ、彼がまだベットの上を見ていた時に、彼はそ
れらを聞いた。
 スクルージは考えた。
(この人は私の身代わりか? そうか、今まで見てきたのは私が
もし精霊の教えに従わなければ、どうなるかを見せようとしてい
るのだ。おお、なんとかわいそうに。もし、この人が今、生き返
ることが出来たとしたら、まず第一に考えることはどんなことだ
ろうか? 強欲か、熱心な取引か、苦しめる心配なことか? オー
ルドジョーの店に集まった彼らは、私に金持ちの最後をあきらか
にしてくれた。それは本当にありありと。この人は暗い空虚な部
屋の中に置かれ、一人の男も、一人の女も、いや、一人の子供も、
そのそばにいない。あの声はこの人。この人が、あれこれと私の
中に親切に言ってくれた。ただ、一つの親切な言葉を覚えさせる
ため。私はこの人のために親切になるだろう)

 猫がドアをひっかいていた。そして、暖炉の石の下でネズミの
かじる音がした。何を彼らは死の部屋の中で探しているのか?
そして、なぜ彼らがそんなに落ちつきがなく、そして、暴れてい
るのか?
 スクルージは、あえて考えることはしなかった。

「精霊様!」と、スクルージは言った。
「ここは恐ろしい場所です。ここを離れた所で・・・、ここで得
た教訓は忘れません。それだけは私の言うことを信じて下さい。
さあ行きましょう」

 ところが精霊は、まだじっと一本の指で、その人の頭部を指し
ていた。

「もう分かりました」と、スクルージは言った。
「私も出来ればそうしたいのですが。ですが、私にはそれだけの
勇気がないのです。精霊様。それだけの勇気がないのです」

 まだ精霊は、スクルージを見下ろしているようだった。

「もし、街に人がいたとして、誰がこの死体を触ってみたいと思
いますか?」と、スクルージはとても苦しそうに言った。
「そんな人がいたら、ここに連れて来てください。精霊様、お願
いいたします」

 精霊は瞬間に、真黒なローブを翼のように広げて、スクルージ
の体を覆った。そして、それを開いた時には、そこに昼間のどこ
かの部屋が現われた。その部屋には、一人の母親とその子供達が
いた。